エッセイ VOL.15 『親と子』



     
京都の小学生男児殺害事件で自殺した21才の男性容疑者。
もうひとりは、
新潟の女性誘拐監禁事件の37才の男性容疑者。

「どちらも母子家庭に育ち、これは犯罪史上、
例をみない特異な事件であり、事件の底に
沈んでいるカギは【母親】である。」…と、
今朝からのテレビのニュースショーで、
司会者やコメンテイターは
興奮気味に喋っておられるのであります。

その朝のワイドショーを食後に観ながら交わした
おかんとウチのおばあちゃん(姑)の会話を実況いたします…。

エラそうな事は、何も言えません。ただの嫁姑のお喋りです。

ちなみに、姑アキコさんは、おかんのエッセイ11号に書いた
28才で未亡人となって、4人の子を一人で育てた母。
(長男は9才の時、戦争中の学童疎開先で病死)
現在86才で、あたまも身体もすこぶる元気です。

小学校教師の現役時代は、家庭内に問題がある登校拒否の
児童を何人か自宅へ預った経験がある。

【アキコ】
「犯罪史上、例を見ない特異な事件」が、ここ何年も続きます
なあ。
ああ、こんなニュースみると、長生きしてても悲しくなるわね。
神戸のサカキバラ少年の時もそうでしたがな。つらいこと…。

【おかん】
ほんまに…
どちらの家庭もお父さんがなくなって、
母親と二人暮らしらしいけど、(21才の方は、お兄さんもいる
が別居)
「父親不在が大きなカギ」ってコメンタイターも言うてはった
けど、言うたとたんに、
「子育ての全ての責任を、母親に押し付けるのは
ヤメテモライタイ」 と言うFAXが、
全国からいっぱい届いているそうです。

ふた親が揃っている家庭でも、近頃は「父性の喪失」が
やかましくいわれますね。

いま、深層心理学のセンセが言うてはるけど、
「父親の役割は、家庭を統合し、理念をかかげ、文化を伝え
社会のルールを教える」ことですと。なるほど。

この役割が失われると、子供は判断の基準、行動の原理を
身につける機会をなくしてしまう、そうです。
お父さんの力はおおきいんですな。

【アキコ】
そうや。両親が揃うているんなら、父親がもっとしっかりして
貰わんと。家庭の問題は「夫婦の」問題ですがな。

それに夫婦が仲良う明るく暮らしていると、
子供は小さいときから
家のなかで安心してなんでも喋れるんです。

子供は両親の顔色をぜったいに、見逃せへんのやから。
特に、母親が「暗い悲しい顔」をしていると、
子供は情緒不安定になる。

【おかん】
母子家庭は母親が両方の役目を担うわけですな。
おばあちゃんもやってきはったんやわね。

【アキコ】
そうです。母親が一生懸命働きながら育てている後ろ姿をみて
子は育つ。
5才までは、母親でも父親でもおもいっきり子供を抱きしめて
やらなあきまへんで。
社会の中へ出てゆく前に、「自分は親から愛されている」と
いう確信を植え付けてやると、それ以後はどんなに厳しく
しつけても、年頃になって反抗期になっても、大丈夫なんや
思います。

【おかん】
それにしてもこの37才の誘拐男、9年2ヶ月ものあいだ
さらって来た子を「監禁」して、好きなように扱うて、
育ち盛りの可愛い女の子を…ほんまにゾッとしますな。

母親も息子を5才から以降もずっと「抱きしめた」まんまです
がな。
「うっとうしい世間と格闘せず、母親の胎内に逃避」やて
司会者が言うてはるけど、ホンマ。

二階に監禁した女の子を、9年以上ものあいだ、気づか
なかったて(誰かいるぐらいは、気づいていたようだが)
そんなこと信じられますかいな。息子の暴力が怖かった
言うても、死ぬ覚悟でなんでぶつかっていかなかったんやろ。

【アキコ】
両親が年いってから出来た子やそうですけど、溺愛も程度が
ありますなあ。
もっと早く、つき放さんと…。

しかし「家庭内暴力」が、これだけ日本中に蔓延しているって
ことは、これは根が深いことです。

【おかん】
「日本の国の未来に希望が持てない」ことが、こんな毎日の
ように起る忌まわしい悲しい、青少年犯罪の元凶やとは
思うけど、社会が悪い、政治が悪いだけでは済まされません
しなあ。

「親と子のあり方、夫婦のあり方」も大事やし、それに
なにか、精神的な指導というか、正しい倫理観を教える人が
欲しい(というとすぐにオウムみたいな変な宗教につかまる
人もいるけど)・・・昔の修身教育を復活せよという声もある
けどそれもねえ。やっぱり親(と学校)しかないわねえ。
(・・・日本は、精神的な支えとしての宗教がないに等しいし。)


今もテレビで言うてるけど、学校へも職場へも行かないで
家に(部屋に)閉じこもっている「引きこもり症候群」の
若者が、全国に百万人いるそうですよ。

そやけど、若いあいだは、いっとき「閉じこもって部屋の
中で考える時期」があっても良いと思うんやけど・・・。
(おかんにも自閉症的な時期がありました。高校生の時は
自殺したいと思うた時も・・・ありました)

本を乱読したり、映画を観まくったり、今はビデオですか、
一日中世間に背を向けて、無為に過ごす時期があっても
今さら驚くなと、マスコミが「若者の引きこもり」という
言葉でセンセーショナルに扱うなと・・・ 私は思います。

「そこから、いつ飛び出す」かが問題なんやけどね。
(芸術家は閉じこもった所から、素晴らしい作品を産みだす
んやろうけど)

普通は、長いあいだ閉じこもったまま出てこない子、
暴力で刃向かってくる子に親はどう対処するか・・・
みんなそれで、困っているんやわね。
(私も正直いうて、これはという意見は思いつきません)

きのう、行きつけの美容院でも、若い女性が喋ってはったけど
「子供を産むのが怖い。男の子はよう育てへん」と・・・。

【アキコ】
そんな自信のない事でどうするんですがな。
「人生どないなとして(どんなことをしてでも)
生きてゆける!」のは、あんさんのモットーやおまへんのか?

いろんな苦しいことがあるけど、「生きていたら楽しいことが
いっぱいあるんや」てことを、小さい時から子供に言うて聞か
すことや。死んだらエエ目に合われへんのやで、と。

「五体不満足」を書いた早稲田の学生さん
乙武青年見てみなはれ!
両手と両足が生まれながらにしてないのに、
「人の役に立ちたい」と毎日むちゃ明るく生きてはるんやで。
「人は誰でも、この世に生まれて来た意味がある」と、
おおきな声で叫んではるがな。

読書や、音楽や、映画や今ではコンピューターですか…
そんなんこんなんを通して「空想したり、想像したり」して、
人間の価値観を養うていくんですがな。
若いあいだは精神的な、哲学的な宗教的なことにのめり込む
時期もあるですやろ。みんな肥やしでっせ。

小学生殺害した21才の男の子も、「自分の行きたい学校へ
行けなかった」だけで、もう人生に希望が持てなくなる、
学校や教育機関に恨みを持って それで罪もない子を殺し、
自殺してしまうなんて…。「想像力」の欠落です。

【おかん】
おばあちゃん、だんだん教師口調になってきましたな。

若い人の、心の病は奥深い闇ですから、簡単には解決策も
見つかりにくいですけど、
親としては、夫婦が 「力をあわせて必死で生きてる姿」を、
子供に示すことしかないんちゃいますか?

母親も、子供にばっかりべったりひっついてんと、
夫と一緒に働いたり遊んだり(いない人は友達も作って)
地域の活動もして、自分の人生楽しまなあきまへんですわな。


監禁されてはった娘さん、ご家族のかたも
これからが大変や思いますけど、
「癒されて」 ほしいと、おおぜいの人が祈っています…。




本日のおかんの法則

「生きることに不満足の若者よ、
【五体不満足】を読め。」
乙武 洋匡(おとたけ ひろただ) 著 )