前号で南国のノナ・マニス(可愛い女の子)の話を聞いて貰った
ので、お調子こいて次は「動物のノナ・マニス」のコトをお喋り
しようかと…
ああ、おかんは彼女の話になると、目尻にできた5本の皺も
のびるくらいにたれ下がってまいります。
雑誌の投稿記事や、犬猫自慢のエッセイを目にして
「なんでこんなにペット自慢ばかりするんやろ。アホちゃうかぁ!」
とそう思うとりました。
…ミーコがわが家にやってくる前までは、ほんまに…。
あれからもう12、3年にもなりますやろか…。
大学の現役合格を目指していたのに、みごとすべったその足で、
予備校の申し込みをしにいった長男が、何を間違うたか
「予備校の玄関先でピィピィ泣いておったで」とちっちゃな猫を
ふところに入れて持ち帰ってまいりました。
まだ目も開かない、片手に乗るくらいのメス猫赤ちゃんでした。
「今から必死で勉強せなあかんのに、猫にかもうている場合かいな!」
と叱りかけたおかんでありましたが、あまりの可愛さにその赤ちゃん、
「おかんにまかしとき!」と長男の手からひったくって、手のひら
に乗せてミルクをナメさすやら、箱の寝床に毛布を敷いてやるやら、
長女次男も「世話は私らがしてやるぅ−」と傍をはなれず大騒ぎ。
ところが赤ちゃんはミルクをナメることもできず、哀しそうに
ミャーミャー泣くばかり。
長男はすぐさま自転車に飛び乗って薬局へ走り、スポイドを握り
しめて帰ってまいりました。
その夜は長男が赤ちゃん猫につきっきりで、スポイドからミルクを
一滴一滴口の中へ落し入れ、やっと静かになったのは明け方のこと。
夢中になると他のことが目に入らなくなる長男、それからは勉強も
そっちのけでベッドの中へ彼女を連れ込み、名前もミーコと名付け
て、朝晩何やら話しかけて猫かわいがりしております。
「はてミーコとは、どこかで聞いた事のある名前…」と思っていたら
妹や弟の話では…
「お兄ちゃんが高校3年の時つき合うてた彼女の名前がミチコさんで
一緒に東京の大学へ行こうと約束していたのに、お父さんの転勤で
ひとあしお先に東京へ行ってしまいはった」そうな。
「そう言えばミチコさんて子から、最近は手紙来んようになったなぁ」
「そうや。お兄ちゃん振られはったんやで。
ミーコは彼女の代理恋人やで。」とこれは小学5年生のマセた弟。
ところがその代理恋人、エライ恋人になりましたんやで…
目も開いて、ミルクをペロペロなめ缶詰のベビーフードを
クチャクチャ噛めるようになって数ヶ月も経つと、毛並みもつやつや
鼻すじの通った「べっぴん猫」になってきよりまして、
長男も「俺の目に狂いはなかった」とニヤニヤ顔。
「男どもが近寄って来んうちに」と、自転車に積んで近所の獣医へ
走り、「一回ぐらいお産をさしてやらんと可哀想でないかい…」と
いうおかんの忠告も無視して、避妊手術を受けさしてしまいました
がな。
さあそれからは、年頃になってもいつまでも可憐な泣き声のまんま。
姿かたちも「聖なる乙女」のまんま…。
ぜんぜん年を取りまへんのや。
(人間のおなごも、子供産まんおひとは3段バラみたいなもんに
なりまへんわなあ。いや、おかんのことではありまへんで。)
長男は受験勉強のあいだもずっと彼女を離さないから、
妹弟たちは兄が予備校へ行っている間だけ、そうっと遠慮しいしい
触っております。
乙女猫も四六時中長男のあとを追いかけ、ヌシさんが英語の単語
やら歴史モンを声を出して暗記していると、しっかり聴き耳を
たてて夜中までずっとつきおうて起きております。
ヌシが寒かろうと足元に寄り添ってぬくめてやり、
予備校から持ち帰った成績表の偏差値がアップした時は、
ペロペロとご褒美に顔を嘗めてやる。
たまにがゴロリと横になってテレビなんぞ観ていると、
早く二階へ上がってお勉強しようと催促する。
サボッていると爪で引っ掻く、てなぐあいで
かくして受験生と恋人の幸せな「蜜月のつきあい」は何ヶ月も続き、
いよいよ受験日になり、長男はミーコの写真を懐にひそませて
(頑張ってくるからな!)とひと声彼女に声をかけるといさましく
上京しよりました。
いよいよ発表の日…
その頃は合否も電子郵便で届く手配をしておったもんですから、
長男もおかんも妹たちも、朝から玄関を出たり入ったり
…そばを恋人猫もウロチョロそわそわ、昼過ぎにやっと届きました。
封筒を配達人から引ったくるようにして受取り、
彼女を抱き上げるなり長男は二階へ駆け上がりました。
おそるおそる忍び足でおかんが二階の部屋を覗きますと、
ベッドの上で頭から被った毛布が上下に揺れております。
(泣いてる…こりゃダメだ…)
その上にのったミーコはきょとんとして、
…けどその瞬間「バンザーイ!」といきなり毛布を跳ね除けたもん
ですから、彼女は思いっきり跳ね飛ばされてしまいました。
だが打ち傷をものともせず、嬉しそうに「ミャーミャー」と
長男のまわりを飛び跳ねております。
「ありがとねミーコ。お兄ちゃんがT大合格できたんは、
みんなあんたのお陰やで…」
ハルが来て桜が咲いて、長男は今度もミーコの写真を沢山カバンに
詰めて家を出てゆきよりました。
恋人猫はしばらくは淋しそうにしておったんですが、
…並みの猫やおまへんで。
それから長女の受験の時も、次男がやっぱり東京の大学へ
行きたいと無理を言うた時も、ミーコははりきって
「受験生のお守り」をしてくれたんでありますわ。
ミーコのお陰で3人とも志望校へ入れたもんですから、
受験時期になると親戚中から
「猫の手を借りたい!」という申し込みが殺到しましてな。
これみんなに内緒にしとったんやけど、
ミーコが拾われた場所「S台予備校」の玄関でっしゃろ、
おかげでウチの三人ともみんな「S台」のお世話になってしもうて。
(お金ようけ払わされましたがな…)
…「ミーコは予備校の【まわしモン】やなかったじゃろか?」と
おかんは今でもそう思うとります。
「ミーコ貸したってもエエけど現役入学ムリやと思う。」と言うと
皆さんあわてて申し込み取消しはった。
話はまだ続きますんやで…。