「トーサンだ」
その夜、おトーさんがつぶやいた。
「とうとう…」
おかんは、うなだれる。
いや、こんなヘタクソなギャグで戯れている場合ではない。
これは、おかんの家庭に起こったほんとうの、哀しい出来事
なのです。
哀しい出来事でも、このおかんのドラマは必ずハッピーエンド
でしめくくることに決まっているので、どうぞ気をお楽になさって。
まだホットなニュースなので、おかんは原稿用紙の桝目の上に
ポタポタと涙を落とさずには、このエッセイが書けない。
(いやキーボードに置いた指が震えて、おおかかんん…になって
前へ進めない。)
それでも、意を決しておかんは、全国の零細企業のおとうさんと
おかんにエールを贈りたくて、我が家がいかにして倒産に降参しないで
再起していったか、まじめな打ち明け話しをしてみようと思う。
また自慢話か、と思わないで最後まで読んでね。
バブルがパチンとはじけて、いま全国の家庭で同じような光景が
いたるところで見られている…んですよね。
倒産、あるい大規模なリストラの犠牲になって、
職を失う一家の大黒柱。
再就職したくても、この不況下では、特に50歳を過ぎたおとうさん
には、なかなか受け入れてくれる会社がない。
たしかおとどしだったか、中小企業の社長さんが3人も、ホテルで
書き置きを残してイッてしまわれた。
あのニュースをテレビで観た時、さすが大食いのおかんも、
3日間ご飯が食べられなかったのであります。
ああ「かわいそうな、おとうさん…。」
自分の命とひきかえに…家族のために、あるいは会社の存続を願って
「この保険金で負債をチャラにして下さい…。」とは。
早いハナシが、会社の経営のためにした借金が、あれよあれよ
というまに、担保価値がさがって、その差額が莫大な借金となって
締めつけるんですよね。
「なんぼでも貸したるでえ!」というあの時の銀行マンの口車に乗った
のがそもそも、間違いのモトであった。うちのばあい。
大阪のどまんなか、心斎橋にあった店は、40歳を過ぎて脱サラした
おとうさんとおかんが、頑張って造った店であります。
サラリーマンの妻だったおかんは、「ありがとうございます」の
ひとことが、なかなか言えなくて、夜中になんども鏡の前で
練習したんだわ。
輸入の毛皮コートやら宝石やら高級バッグを
販売していたから、おかんはそれらを車に積んで
親戚や友達の家々を廻り、
3人の子供の学校の職員室まで押しかけて、
放課後に用務員室で女の先生方相手に
出張販売をしたんだわ。
先生方はご親切にもよーく協力して下さった…。
無店舗販売で資金を増やして、
大阪の商業地としては一等地の心斎橋に小さな店を構えた時は、
マスコミの取材を受けたこともあった。
数年間は大儲けが続いたこともあるが、
おんな詐欺師に宝石を数千万円分も騙し取られて
泣いたこともあった…。
お客さんは女性ばかりだから、
ピアノを置いて寛げいで歌も歌える空間の
サロン・ブティックを経営したこともあった。
ここからは、10数年続く夫婦の「細腕繁盛記」なのだが、
涙がこぼれるのでカット。
無借金経営とはいかなくて、店の拡張や商品の仕入れに
銀行からお金を借りた。
国金(国民生活金融公庫)の教育ローンもあった。
財産は自宅しかないからそれを元にして、たとえば1000円の
担保価値で900円までメいっぱい借りる。
儲かっていたころは毎月返してゆける計算。
ところが、バブルが終わってみたら、1000円が120円の価値になって
しまって、780円の借金が残る。
(アワが消えたのち、大きな数字を口にするのがアホらしくなって
おかんの喩え話しはサイズが細かいが、ゆるせい!
ひょっとしてここのところ、計算間違っているかね、おとうさん。)
不況風が吹きまくり、売上は落ちるわ、
銀行は莫大な利息のおまけをつけて
「はやく、はやく」と迫ってきよるわ、
頑張って造った店を潰したくないわで、
夫婦ふたりして日夜身もだえしたのであるが…。
ここから以後、大幅に省略があるが、いろいろあって…xxx
ううううxxあっあっ(…待って!銀行どの)△◎★xxx☆
(債権者さん、許してっ)あっあっあああーあ。
家をおん出された。
20年間、商社の企業戦士を務めた時の
おとうさんの汗と涙の結晶。会社分譲のニュータウン内、
100坪の土地に注文で建てたマイホーム、それに…
車2台にピアノも家具も…宝石も…毛皮も…大事な書物も
…みんな棄てて(お召しあげになって)。
おかんはおとうさんと猫1匹、荷車に布団だけ積んで、トボトボと。
新婚世帯に戻ったのであります。子供3人はどこへ行ったかって?
エッセイ1号、2号を探してくれる?
それからおかんは、ゼニを稼ぐために風俗の店に…ゆかなかったが、
行ってもきっと断られたとおもう。
ここからあとは、涙でかすんでキイが打てないので、
“to be continued”とします。
次回で、かならず「起死回生」までゆきつくぞ。